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路線価だけで分けると損をするのは誰か|江戸川区の遺産分割で鑑定評価が効く3つの場面

Appraisal Journal

江戸川区の遺産分割で相続税路線価をそのまま基準にすると、特定の相続人だけが不利益を負うことがあります。底地、再建築に制約のある土地、浸水想定区域内の土地という3つの場面について、路線価と時価が乖離する理由と金額差の目安を、西葛西の不動産鑑定士が解説します。

相続公開: 24分で読了著: 吉田 健人

江戸川区で実家や土地を相続され、きょうだいで分け方を話し合っている。税理士から示された相続税申告書の評価額を見ながら、「この金額を基準に分ければ公平だろう」と考えている。もしあなたがそういう場面にいらっしゃるなら、いったん立ち止まっていただきたいのです。

相続税申告に使う路線価による評価額と、遺産分割で公平を判断するための時価は、まったく別の物差しです。ところが江戸川区には、この2つが大きく食い違いやすい不動産の類型が集中しています。旧市街に残る借地権と底地、区画整理を経ていない街区の不整形地・狭小地、そして区域の大半を占める浸水想定区域内の土地です。ズレに気づかないまま合意してしまうと、特定の相続人だけが数百万円から一千万円単位の不利益を負うことがあります。

私たち鑑定士は、税務のための評価と、分けるための評価を明確に区別して扱います。本記事では、路線価と時価がなぜズレるのかを整理したうえで、江戸川区の遺産分割で鑑定評価が効く3つの場面を、具体的な数字とともにご説明します。なお、相続税の課税上の取扱いは個別事情で結論が変わりますので、必ず税理士にご確認ください。

路線価と時価はなぜズレるのか

路線価は「課税のための価格」である

相続税路線価(国税庁が毎年公表する、路線に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額)は、相続税・贈与税の課税標準を計算するための価格です。国税庁は、路線価を地価公示価格の水準のおおむね80パーセント程度として評定していることを公表しています。つまり路線価は、はじめから時価より2割低い水準に置かれている価格なのです。

さらに、個別の土地の評価額は、財産評価基本通達の奥行価格補正率・間口狭小補正率・不整形地補正率といった補正率表を機械的に当てはめて求めます。大量の申告を公平・迅速に処理するうえでは合理的な仕組みですが、その土地に固有の事情を市場がどう評価するかを写し取ったものではありません。

遺産分割で使うべき物差しは「分割時の時価」

一方、遺産分割は民法906条が定めるとおり、遺産に属する物の種類および性質、各相続人の生活の状況その他一切の事情を考慮して行うものとされています。ここで前提となる価額は、課税のための価格ではなく、分割の時点で第三者に売ろうとすればいくらになるかという実際の交換価値です。家庭裁判所の遺産分割調停・審判でも、不動産の価額は原則として分割時点の時価で判断されます。

つまり、路線価による評価額をそのまま分割の基準に使うことは、本来「時価」で測るべきものを「課税用の簡便な物差し」で代用していることになります。土地が整形で標準的であれば、両者の差は全体に均等に及ぶため、割合で分ける限り不公平は生じにくい。問題は、その差が特定の財産にだけ偏って生じるときです。

江戸川区は上昇局面にあり、ズレが拡大しやすい

令和8年分(2026年分)の路線価について、江戸川区の対前年変動率はプラス8.7パーセントと報じられています。ここで注意したいのは、路線価が毎年1月1日を評価時点とする価格だという点です。地価が動いている局面では、年の後半に分割協議を行うほど、路線価と現時点の実勢との間に時間差が積み上がります。上昇局面で路線価をそのまま使えば、不動産の価値は実勢より低く見積もられ、不動産を取得する相続人に有利に、代償金を受け取る相続人に不利に働きます。

場面1|借地権と底地が絡む遺産分割

江戸川区の旧市街には旧法借地権が残っている

江戸川区は、小岩・平井・松江・鹿骨といった旧市街に、戦前・戦後から続く借地関係が今も残っている地域です。相続財産に「借地の上に建てた自宅」あるいは「他人に貸している土地(底地)」が含まれるというご相談を、当事務所でもいただきます。

詳しくは借地権・底地の評価でも整理していますが、遺産分割の場面で最も注意すべきなのは底地です。相続税評価額と実際の市場価格の乖離が、あらゆる不動産の中で最も大きくなりやすいからです。

路線価方式の借地権割合は一律である

財産評価基本通達による借地権の評価は、更地の評価額に、路線価図のアルファベット記号(AからGまで)に対応する借地権割合を掛けて求めます。江戸川区の住宅地では、多くの路線にDすなわち60パーセントが付されており、底地はその残りの40パーセントとして評価されます。

ここで見落とされがちなのは、この「借地権60パーセント、底地40パーセント」という配分が、あくまで課税上の割り切りだという点です。市場で底地だけを第三者に売ろうとすると、買い手は地代収入しか得られず、建物を建てることも自分で使うこともできません。地代が固定資産税の数倍にとどまる住宅地の旧法借地では、更地価格の1割から2割程度でしか値が付かないことも珍しくありません。

想定されるケース|底地を取得した相続人が損をする

具体的な数字で見てみましょう。江戸川区内の住宅地、地積150平方メートル、路線価35万円、借地権割合60パーセントの底地を想定します。

項目相続税評価ベース実勢価格ベース
更地としての価額5,250万円約6,560万円
借地権(60パーセント)3,150万円約3,280万円
底地(40パーセント/実勢は15パーセント想定)2,100万円約980万円

更地の実勢価格は、路線価が地価公示水準の8割であることから逆算した概算です。借地権付建物は市場でも更地価格の5割前後で流通することがあり、相続税評価額と大きくは離れません。しかし底地は、相続税評価で2,100万円とされるものが、実際に売ろうとすれば1,000万円前後にしかならない。差は1,100万円を超えます。

この底地と、預貯金2,100万円とをきょうだいで分けたらどうなるか。書面の上では等分ですが、実際に手にする価値は半分以下です。底地を取得した側だけが、一方的に不利益を負うことになります。

場面2|不整形地・狭小地・接道に難のある土地

補正率表は「平均的な減価」を示すにすぎない

財産評価基本通達の不整形地補正率表・間口狭小補正率表・奥行長大補正率表は、形状の悪さを一定の率で割り引く仕組みです。全国の土地に一律に適用できるよう設計された、いわば平均値と言えます。市場が実際にどれだけ嫌気するかは土地の条件によって大きく振れ、区画整理を経た地区と経ずに細分化が進んだ旧市街とが混在する江戸川区では、その振れ幅が特に大きくなります。

再建築の可否が価格を決定づける

小岩・平井・一之江の一部には、幅員4メートル未満の道路に接する敷地が残っています。建築基準法42条2項の道路(いわゆる二項道路)に接する場合、建て替えの際には道路中心線から2メートル後退するセットバックが必要となり、その部分は敷地面積に算入できません。そもそも同法上の道路に2メートル以上接していなければ、43条の接道義務を満たさず、原則として再建築ができません。

再建築ができるかどうかは、市場では「値段が半分になるかどうか」の分かれ目です。通達の補正率で3割引き、4割引きと計算しても、買い手は住宅ローンが組めないことを理由にさらに買い叩きます。この場合、相続税評価額のほうが実勢より高くなる。先ほどの底地とは逆方向のズレです。

想定されるケース|評価額のほうが実勢より高くなる

地積100平方メートル、路線価35万円の土地が、幅員1.8メートルの通路にしか接しておらず、接道義務を満たさない場合を考えます。財産評価基本通達20-3では、こうした土地を無道路地として、不整形地としての評価額から通路開設費用に相当する額を控除して評価します。ただし控除できる額は、不整形地としての評価額の40パーセントが上限とされています。仮に不整形地としての評価額が3,150万円であれば、控除後もなお1,890万円が残る計算です。

一方、市場ではどうでしょうか。再建築ができない土地は住宅ローンの対象になりにくく、買い手は現金で購入できる事業者などに限られます。取引の水準が、再建築可能な近隣地の3割から5割程度にとどまることも珍しくありません。更地としての実勢が4,370万円の土地なら、再建築不可を織り込んだ価格は1,500万円前後まで下がりうるのです。

つまり相続税評価額のほうが実勢を300万円以上上回ります。「評価額1,890万円の不動産を取得したのだから」として代償金を計算すれば、取得した側が余分な負担を負う。分割の場面では、評価額が高いことは有利ではないのです。

場面3|浸水想定区域内の土地をどう見るか

江戸川区の大半は浸水想定区域である

江戸川区は、区の陸地の約7割が満潮時の水面より低い、いわゆる海抜ゼロメートル地帯であることを公表しています(江戸川区「江戸川区の地形」)。2025年7月公表の水害ハザードマップ第2版でも、荒川・江戸川・中川などの氾濫を想定した場合、区の広い範囲が浸水想定区域に含まれ、浸水深は場所によって数メートルに及ぶとされています。

宅地建物取引業法施行規則16条の4の3により、2020年8月から、水防法に基づく水害ハザードマップにおける対象物件の所在地は重要事項として説明することが義務づけられています。買主は必ずハザード情報を知ったうえで判断する。市場価格には、この情報が織り込まれているのです。

路線価はハザードを個別には反映しない

一方、路線価は路線ごとに付される価格ですから、その路線に面する土地の平均的な状況を前提としています。同じ路線に面していても、地盤の高低差、想定浸水深、避難のしやすさによって市場の評価は変わります。財産評価基本通達に、浸水想定区域であることを理由とする減価の定めはありません。

ここで断言しますが、「浸水想定区域だから何パーセント下がる」という一律の答えは存在しません。区内でも、需要が厚いエリアでは価格への影響がほとんど確認できない場合があり、逆に低地の戸建で影響が見て取れる場合もあります。だからこそ、取引事例を集めて市場の反応を確かめる作業、すなわち鑑定評価の出番になります。

損をするのは誰か|非対称に生じる不利益

不利益は必ず一方に偏って生じる

損をする側ははっきりしています。ひとつは、相続税評価額が実勢を上回る不動産、つまり再建築に制約のある土地や著しく不整形な土地を取得した相続人です。評価額を基準に代償金を支払えば、その差額はそのまま損失になります。もうひとつは、実勢を下回る評価額の不動産を他の相続人が取得し、自分はその評価額を基準に算定された代償金を受け取った相続人です。

両者の中でも突出して差が出やすいのが底地です。江戸川区の旧市街で底地をお持ちのご家庭では、この点を確認せずに分割協議を進めることは避けていただきたいと考えています。

合意の前に第三者の価格意見を入れる

いったん遺産分割協議書に署名・押印してしまうと、後から評価が違ったと主張して覆すことは容易ではありません。分割の話し合いを始める前、あるいは大枠の方向性が見えた段階で、不動産の価額について第三者の意見を入れておくことをおすすめします。

その際、必ずしも最初から正式な鑑定評価書が必要とは限りません。相続人の間で相場観を共有することが目的なら、価格等調査報告書で足りることが多く、費用も期間も抑えられます。調停や審判に進んでいる場合には鑑定評価書が必要です。費用の目安と使い分けは、江戸川区で不動産鑑定を頼むといくらかかる?で詳しく整理しています。

なお、相続税申告で路線価によらない時価評価を検討される場合は、課税上の取扱いが個別事情で大きく変わりますので、必ず税理士にご相談ください。

まとめ

路線価は課税のための物差しであり、遺産分割の公平を測るための物差しではありません。江戸川区には、この2つが大きく食い違う不動産が集中しています。

要点を振り返ります。

  • 相続税路線価は地価公示価格の8割程度の水準に評定されており、はじめから時価とは異なる
  • 遺産分割で前提とすべきは、民法906条に沿った分割時点の実際の交換価値である
  • 底地は相続税評価で更地価格の4割とされる一方、市場では1割から2割にとどまることがあり、乖離が最も大きい
  • 再建築に制約のある土地や著しく不整形な土地では、逆に相続税評価額が実勢を上回り、取得した相続人が損をする
  • 浸水想定区域は一律の減価率では扱えず、取引事例による市場の反応の確認が必要である

これから遺産分割の話し合いに入るご家族、すでに協議が難航し不動産の価額で意見が分かれているごきょうだい、そして相続案件を扱う中で価額に疑問を感じておられる税理士・弁護士の先生方。いずれの立場であっても、合意の前に価額を確かめておく価値は大きいと考えています。

江戸川区・城東エリアの不動産の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。物件の所在地と分割のご事情をお知らせいただければ、そもそも鑑定評価が必要な場面なのかというところからご説明します。相続・遺産分割の評価もあわせてご覧ください。

TAGS#遺産分割#路線価#底地#江戸川区#相続
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