江戸川区で借地に建つご自宅を相続された。あるいは先代から引き継いだ底地(借地権が設定されている土地の、地主側の権利)が区内にあり、借地人の方から「買い取ってほしい」と言われている。そうしたとき、多くの方がまず調べるのが路線価図の借地権割合です。江戸川区の住宅地なら「D」、すなわち60パーセント。ここまでは、少し調べれば誰でもたどり着きます。
問題はその次です。「借地権割合が60パーセントなら、借地権は更地価格の6割で売れるはずだ」「では底地は残りの4割の値が付くはずだ」。この理解のまま交渉に入ると、提示された金額との落差に驚くことになります。実際の市場では、借地権はおおむね近い水準で動くことがある一方、底地は4割どころか更地価格の1割から2割にしかならない、ということが珍しくないからです。
なぜこんなことが起きるのか。路線価図の記号は何を表していて、何を表していないのか。私たち鑑定士は、この2つを厳密に分けて考えます。本記事では、江戸川区の借地権割合の実際と、路線価図の数字が市場価格とズレる理由を、具体的な数字を置きながらご説明します。なお、相続税や譲渡所得の課税上の取扱いは個別事情で結論が変わりますので、必ず税理士にご確認ください。
路線価図の記号は何を表しているのか
アルファベットはAからGまでの7段階
相続税路線価(国税庁が毎年公表する、路線に面する標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額)の図面を開くと、「350D」のように数字とアルファベットが並んでいます。数字は1平方メートル当たりの路線価を千円単位で示したもの、そして後ろのアルファベットが借地権割合です。
| 記号 | 借地権割合 | 記号 | 借地権割合 |
|---|---|---|---|
| A | 90パーセント | E | 50パーセント |
| B | 80パーセント | F | 40パーセント |
| C | 70パーセント | G | 30パーセント |
| D | 60パーセント | ー | ー |
「350D」であれば、その路線に面する標準的な宅地は1平方メートル当たり35万円、借地権割合は60パーセントという意味です。記号が付されていない路線は、借地権の取引慣行がないものとして扱われます。
江戸川区の住宅地はおおむねDが中心
江戸川区の路線価図を見ると、住宅地の多くの路線にはD(60パーセント)が付されています。総武線・京葉線の各駅前や、環状七号線・京葉道路沿いなど商業性の高い路線ではC(70パーセント)が見られ、工業系の用途地域や区の外縁部ではE(50パーセント)が付されている路線もあります。
ただし借地権割合は路線ごとに付されるもので、隣の通り一本で記号が変わることもあります。「江戸川区だから60パーセント」と決め打ちせず、ご自身の土地が面する路線を必ず路線価図でご確認ください。国税庁の財産評価基準書のサイトで、住所から無料で閲覧できます。
借地権割合は「借地権の売買相場」ではない
ここが最大の誤解です。財産評価基本通達27が定める借地権の評価は、自用地としての価額に借地権割合を乗じて求めるものであり、同通達25が定める貸宅地(底地)の評価は、自用地としての価額から借地権の価額を控除して求めるものです。いずれも、相続税・贈与税の課税標準を大量かつ公平に算定するための割り切りとして設けられた仕組みです。
言い換えれば、借地権割合は「税務署が課税額を計算するときに使う配分比率」であって、「市場でその値段が付くという保証」ではありません。ここを取り違えたまま売買や遺産分割の話を進めると、片方の当事者だけが大きな不利益を負います。
江戸川区の借地はなぜ「旧法」が多いのか
旧市街に戦前からの借地関係が残っている
江戸川区は、小岩・平井・松江・鹿骨といった旧市街に、戦前から戦後にかけて設定された借地関係が今も残っている地域です。区画整理を経て街区が整えられた地区と、そうでない地区が混在していることも、区内の借地を複雑にしています。
旧借地法が適用され続ける契約が多い
現在の借地借家法は1992年(平成4年)8月1日に施行されましたが、同法の附則により、施行前に設定された借地権には原則として旧借地法が適用され続けます。契約を更新しても、新法に切り替わるわけではありません。
旧借地法のもとでは、存続期間が満了しても、地主側に正当の事由がなければ更新を拒むことができません。つまり借地人の立場は極めて強く、地主は自分の土地でありながら、いつ返ってくるとも分からない状態が続きます。この法的な力関係が、借地権と底地の市場価値をそのまま左右しています。
地代が低い水準で固定化している
長く続いた借地契約ほど、地代は据え置かれたままになりがちです。住宅地の旧法借地では、地代が固定資産税・都市計画税の年額の3倍から5倍程度にとどまる例が実務上よく見られ、土地の資産価値に対する利回りが1パーセントに満たないことも起こります。底地を買う人は、この地代だけを収入源として引き継ぎます。底地に値段が付きにくい理由の出発点は、ここにあります。
記号と実勢がズレる3つの理由
理由1|底地の買い手には使い道がない
底地を取得しても、その上には他人の建物が建っています。自分で使うことも、建て替えることも、更地にして売ることもできません。得られるのは低額の地代のみで、固定資産税を負担すればほとんど手元に残らないこともあります。
そのため底地を第三者に売る場合、買い手は将来の借地権の買い取りや同時売却を狙う専門業者に事実上限られます。業者は将来の不確実性を織り込んで価格を決めますから、更地価格の10パーセントから20パーセント程度が一つの目安となります。相続税評価上の40パーセントとは、桁が違うと言ってよいほどの開きです。
理由2|譲渡にも建て替えにも地主の承諾と承諾料が要る
借地権を第三者に売るには、地主の承諾(または裁判所の許可)が必要です。実務上、譲渡承諾料として借地権価格の10パーセント前後を地主に支払うのが一般的な水準とされています。建物を建て替える際には建替承諾料として更地価格の3パーセントから5パーセント程度、木造から鉄筋コンクリート造へ構造を変更するなど契約条件を変える場合には、更地価格の10パーセント程度を求められることもあります。
買い手はこれらの費用と交渉の手間を織り込んで購入価格を決めますから、そのぶん借地権の手取りは目減りします。
理由3|住宅ローンが付きにくい
借地権付きの建物は、金融機関によって取扱いが分かれます。地主の承諾書(抵当権設定承諾)が得られるかどうかが審査の前提になることもあり、所有権の物件に比べて融資のハードルが上がります。買える人が減れば、それは価格に反映されます。
加えて江戸川区では、幅員4メートル未満の道路にしか接していない敷地や、水害ハザードマップ上の浸水想定といった、重要事項として説明される要素も価格形成に関わります。借地権割合という一つの数字では、これらは何も拾えません。
想定されるケース|江戸川区の住宅地に数字を置いてみる
江戸川区内の住宅地で、地積150平方メートル、路線価が1平方メートル当たり35万円、借地権割合D(60パーセント)の旧法借地を想定します。更地としての実勢価格は、路線価が地価公示価格の水準のおおむね80パーセント程度として評定されていることから逆算した概算です。
| 区分 | 相続税評価額 | 実勢価格の目安 |
|---|---|---|
| 更地としての価額 | 5,250万円 | 約6,560万円 |
| 借地権 | 3,150万円 | 2,600万〜3,300万円 |
| 底地 | 2,100万円 | 660万〜1,310万円 |
借地権は、更地実勢のおよそ4割から5割の水準で第三者に売却されることがあり、相続税評価額とおおむね同じ水準に収まります。ところが底地は、相続税評価で2,100万円とされるものが、実際に売ろうとすれば1,000万円前後にとどまる。評価額を800万円から1,400万円ほど下回る計算で、ここに1,000万円規模の落差が生じます。
借地権と底地を足しても更地価格に届かない
もう一つ、見落とされやすい事実があります。上の想定では、借地権の実勢を約3,000万円、底地の実勢を約1,000万円としました。合計しても約4,000万円で、更地としての実勢6,560万円には2,500万円ほど足りません。
この差額は、借地関係が続いていること自体による減価です。土地を貸しているという状態が、全体の価値を目減りさせている。逆に言えば、借地関係を解消できれば、この2,500万円が当事者のどちらか、あるいは双方に戻ってくることになります。
相手が誰かで価格が変わる|限定価格という考え方
借地人が底地を買う、地主が借地権を買う
不動産鑑定評価基準は、市場が相対的に限定される場合に当事者間でのみ経済的合理性が認められる価格を「限定価格」と定義し、その典型例として借地権者が底地を併合する場合を挙げています。
先ほどの数字で考えてみましょう。底地を第三者に売れば1,000万円前後です。しかし借地人にとっては、その底地を取得すれば完全な所有権となり、6,560万円の資産になります。すでに持っている借地権の価値3,000万円を差し引いても、3,500万円以上の値打ちがある計算です。第三者にとっての1,000万円と、借地人にとっての3,500万円。この幅のどこで折り合うかが交渉であり、その根拠を示すのが鑑定評価の役割です。
なぜその金額なのかを説明できる根拠を持って交渉の席に着けるかどうかで、結果は大きく変わります。
同時売却という第三の選択肢
借地権者と底地所有者が合意して、完全所有権の土地として同時に第三者へ売る方法もあります。上の想定では、更地としての実勢6,560万円を二者で分けることになりますから、それぞれが単独で売るよりも手取りが増える可能性が高い。
問題は、その配分比率をどう決めるかです。借地権割合の60対40をそのまま使うのが常に妥当とは限りません。地代の水準、契約の残存期間、承諾条件、建物の状態によって、公平な配分は変わります。私たち鑑定士は、この配分の根拠を示すために評価を行います。なお、契約の解除や合意の法的効力に関わる部分は、弁護士にご確認ください。
江戸川区で借地・底地に向き合うときに
相続税の申告と、売買・分割は物差しが違う
相続税の申告書に記載された借地権や底地の評価額は、あくまで課税のための金額です。その金額をそのまま遺産分割の基準に使うと、底地を取得した相続人だけが実質的に大きな損を負うことになります。この点は路線価だけで分けると損をするのは誰かで詳しく整理していますので、分割協議の前にご確認いただければと思います。
交渉の前に、価格の根拠を持つ
地主から底地の買い取りを持ちかけられている、逆に借地人から借地権の買い取りを求められている。そうした場面で最初にすべきことは、相手の提示額の妥当性を判断できる材料を持つことです。
必ずしも最初から正式な鑑定評価書が必要とは限りません。交渉の材料として相場観を持ちたい段階であれば、価格等調査報告書で足りることが多く、費用も期間も抑えられます。訴訟や調停に持ち込まれている場合、あるいは税務署への説明資料として使う場合には、鑑定評価書が必要です。費用の目安と使い分けは江戸川区で不動産鑑定を頼むといくらかかる?にまとめています。借地権・底地の評価そのものについては借地権・底地の評価もあわせてご覧ください。
まとめ
江戸川区の借地権割合は住宅地でおおむね60パーセントですが、それは課税のための配分比率であって、市場でその値段が付くことを意味しません。借地権はおおむね近い水準で動くことがある一方、底地は更地価格の1割から2割にとどまることが珍しくないという非対称が、この地域には現に存在します。
要点を振り返ります。
- 路線価図のアルファベットはAの90パーセントからGの30パーセントまでの7段階で、江戸川区の住宅地はDの60パーセントが中心である
- 借地権割合は財産評価基本通達に基づく課税上の配分比率であり、売買相場を示すものではない
- 底地は自分で使えず建て替えもできないため、第三者への売却では更地価格の10パーセントから20パーセント程度が目安となる
- 借地権の譲渡には地主の承諾と承諾料(借地権価格の10パーセント前後)が必要で、そのぶん手取りが目減りする
- 借地人が底地を買う場合は限定価格の考え方が働き、第三者向けの価格とは別の水準で成立しうる
区内の借地に建つご自宅を相続された方、先代から底地を引き継いで扱いに悩んでおられる地権者の方、そして借地権が絡む案件で価額の妥当性に疑問を感じておられる税理士・弁護士・司法書士の先生方。借地と底地は、数字の見た目と実際の価値が最も食い違う不動産です。交渉や合意の前に、価格の根拠を確かめておく価値は大きいと考えています。
江戸川区・城東エリアの借地権・底地の評価でお悩みの方は、西葛西の鑑定士による初回無料相談をご利用ください。物件の所在地と契約のご事情をお知らせいただければ、そもそも鑑定評価が必要な場面なのかというところからご説明します。


